主人公は非行少年スミス。クロスカントリー競技会で優勝を目前にしながら、大人たちの期待をみごとに覆す、あのどんでん返しに、へそ曲がりの私は惹かれます。トップで走ってきて、歓声を浴びながら「競走ではだれにも負かされっこないが、きょうは自分からレースに負けてやるつもりだったのだ」と「阿呆みたいに」その場に立ちつくし、どんどん追い抜かれていってしまう……。そこに至るまでは孤独感の中で、自分との闘いをコツコツ重ねてきたはずなのに。優勝すれば太鼓腹の出目金院長らが「わたしのしつけのおかげです」なんて言いだすことがわかっているから、やはり癪でね。ちっぽけな勝利に縛られて他人様の引いたコースを走るのではなく、「自分自身の道を行くべき」という自分が信じる「唯一の誠実さ」をもって、わが道を行く潔さ。

石川も誰かのためにではなく、いつも自分のやりたいことに正直でいたい。期待に沿わない(笑)。結構、そういうところがあるので、大好きな一冊です。

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いしかわさゆり

石川さゆり

歌手。熊本県生まれ。1973年のデビュー以降、「津軽海峡・冬景色」、「天城越え」、「能登半島」などヒット曲多数。NHK「紅白歌合戦」では紅組最多の41回の出場を誇る。124 枚目のシングル『酒供養~縁歌バージョン~』も好評。「和の心」を基に尽きせぬ歌への好奇心で常に新たな音楽を紡ぎ出している。近年はジャンルに捉れない、さまざまなアーティストとのコラボレーションが話題に。

平成最後の年、2019年3月20日には日本の音楽「民謡」をモチーフにしたオリジナルアルバム『民~Tami~』を発表。日本のみならず、世界からも注目を浴びている。2007年12月 文化庁芸術祭大賞、2018年3月、芸術選奨文部科学大臣賞をはじめ、受賞歴多数。

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