Menu

KIGI×BUH Talk:03

キギ

 都会と田舎でちがう?

Books under Hotchkissではキギ展「キギの作った作品、キギを作った本。」もスタートしています。2階ではKIGIの代表的な作品「時間の標本」を展示、1階では2人が影響を受けた本を展示/販売しています。KIGIのアウトプットとインプットが同時に見られる展示となっています。 KIGIのインタビューも3回目となりました。前回は2人のユニットでやっていく意義についてお話を聞きましたが、今回は今のKIGIや、今まで詳しく聞けなかったよしえさんの考え方についていろいろ聞いちゃいます。

 

Talk:03 

デザイナーの成長とKIGIの作品たち


 

KIKOFを生んだ土地の力、職人さんの力

【 BUH 】:前回はショートフィルムを作ったというお話の導入で終わりましたが。

 

【植 原】:21_21designsightの「チョコレート」展に参加した時にショートフィルムをつくりました。当時まさか映画なんか作んないだろうなと思いながら、気づいたら「あれ映画つくることになってる?」という流れになっていたんです。

 

【一 同】:笑

 

【 BUH 】:「チョコレート」展は深澤直人さんディレクションのもと、約30組のアーティストが参加したんですよね。オリジナルチョコレートを作る人もいれば、チョコレートにインスピレーションを得た自由な作品をつくる人たちもいて。

 

【植 原】:(それだけ参加アーティストがいたら)かぶるじゃん、何やってもと思った。

 

【良 重】:そうそう。実際、最初のアイデア出しの時にかぶったんだよね。チョコレートを題材にしてデザイナーがいろんなこと考えるっていうワークショップで。

 

【良 重】:何を考えても誰かが似たアイデアを出してくる気がして。他の人がやらないこと、やらない方法って考えていったら「映像作品」かな、と。

 

【植 原】:映像の中にアイデアをたくさん入れて行くといいかも。うん、絶対に大丈夫だ!と思った。それってつまりは、「映画」だよねと気づいた。
カトラリーや食器やチェスの駒の形にチョコレートをつくることは、ありえないくらい大変だったんだけど、ましてや映像をつくらなくてはならない、、俳優さん探したり、ストーリーを設定して台本書いてみたり、チェス協会の方に駒の進め方のアドバイスをもらったり、ロケハン、撮影等。あと、演技の方向性を俳優さんに伝えることとか、全てが初めてのことだったので、ひとりでは乗り越えられないことだったと思う。

 

2007_チョコレート_00

 欲望の茶色い塊

 

【良 重】:あれは本当大変だった。

 

【植 原】:本当に大変だったね。

 

【 BUH 】:ずっと大変な話だらけじゃないですか(笑)

 

【植 原】:だから本当に、コンビってオススメなんです。別にアートディレクター同士じゃなくてもいい。アートディレクターとプロデューサーで組んでもいいわけです。

 

【良 重】:奥さんという手もある。表現する人と組まなくてもいい。学生時代のうえさんがお母さんにいつも作品の感想を聞いていたような感覚で奥さんに聞くとか。
そういうことって自然にやっている人は多いはずだから、コンビってそんなに珍しいことじゃないと思う。

 

【植 原】:僕たちはたまたまふたりとも「作る人」だったというだけで。でも同じ「作る」にしても本当に方法やアイデアが違うから、いいのかな。同じように企画をする人だったら、企画の段階でぶつかり合ってしまう。それで、なかなか前に進まなくなる。
映像の監督なんてやったことなかったんですが、二人だとそういうチャレンジが容易にできちゃうんです。つまり、責任が半分になるので気楽にできるし、チームでつくる喜びが得られる。

 

【 BUH 】:話は変わりますが、今年のADC賞グランプリにKIGIのKIKOFが選ばれました。おめでとうございます!

 

IMG_0616+_補正_小

 KIKOF

 

 

【 BUH 】:KIKOFは、「Mother Lake Products Project」の一環ですね。琵琶湖周辺で培われてきた伝統工芸の技術を活かして、現代的なライフスタイルに合ったプロダクト製作を目指していくというプロジェクト。最初から「やきものをつくろう」「陶芸でブランドをつくろう」ってところからスタートしたのですか?

 

【植 原】:厳密にいうと、陶芸だけじゃなかったんです。滋賀県が県の持つ“ブランド力”の調査で最下位になってしまった。そこをなんとかしたいと、プロジェクトの発起人である立命館大学の佐藤典司先生に県から依頼がありました。伝統技術を使って地域振興をやりたいという話が発端です。そこで佐藤先生はやる気のある若手の職人を集めるべく、現場を見て回った。木工、麻、ちりめん、仏壇仏具とか、いろいろなその職人さんの候補があがりました。私達はそれぞれの職人さんと1こずつ平等にいろいろなものをつくってもよかったし、その中の誰かとやるのでもでもよかった。

 

【植 原】:最初に出たアイデアが結婚式の引き出物とか、とにかく結婚をテーマにしたものを作ろうと思った。素材はひとつに関わらず、お皿は陶器や木や漆を塗った木で、木箱も作って麻のふろしきで包むとかいろいろ考えてみた。ただ引き出物として全部セットにした時にトータルで売り物として20万円くらいしてしまうことに気づいて。

 

【一 同】:(笑)

 

【植 原】:これはないな、と。

 

【良 重】:売れないでしょ。

 

【植 原】:いろんな職人さんとバランスをとるのはやめようという話になり。まず、琵琶湖は日本の大きな器であるというテーマを立てて、“器湖=キコ”というワードが思い浮かびました。そこにFreeやFutureやFreedomなどの頭文字Fを加えて、KIKOFという名前ができました。
なぜ陶器かというと、一番ちゃんと売れそうだ!と思ったという理由もあります(笑)

 

【良 重】:たとえば木だと、職人さんがひとつひとつ削り出すので高くなってしまう。そういうのは今後にとっておいて、まずは陶器からやろう、という話になったのです。

 

【植 原】:そうそう。

 

【良 重】:自治体からの助成金(詳細希望)をいただいてのプロジェクトだったので、ある時期までに世に出さないといけないという制約があったのです。期日がどんどん迫ってくる中で、アイデアを全部捨ててゼロからもう一回考え直そうってなった時に、紙でまず形を作るのはどうだっていうことになったんです。あ、いいかも!とひらめいた。

 

【 BUH 】:それってあのコクヨのノートの表紙でつくった「fake vases for fake flowers」とつながっている話?

 

【植 原】:同時期ですね。やらなきゃいけないとが重なっていて、お互いいい作用で生まれました。

 

 

BUHでの展示「時間の標本」と本の関係

 

時間の標本

 時間の標本

 

 

【 BUH 】:なるほど。今、Books under HotchkissではKIGIの展示が始まって、KIKOFももちろん展示していますが2階のギャラリーゾーンの展示の中心は「時間の標本」です。
時間の標本自体が「本」をモチーフにしていますが、これまでうかがった「本」のお話、その選書との関係性を教えてください。

 

【植 原】:必ずなにかしら「本」に影響されているし、読んだ瞬間に光が降りてきた経験とか。誰しもそういう瞬間ってあるはずなんです。「時間の標本」も、そういう象徴として本をテーマにしています。
本を開いた時に、蝶が生まれ、羽ばたいている。
その蝶っていうのは、僕たちが描いて切って、生まれたものなんです。本のちょうど真ん中あたりに蝶を表裏描き、羽根の部分を切り取ると製本のテンションで自然と羽根が起き上がってくる。つまり生まれた瞬間に立ち会っているような感覚になるんです。
選書との関係は無いんだけど、それは本というものを即物的にとらえたかったからなんです。感情を入れこまないで「本である」というふうに俯瞰して本に向き合うことが、この作品の場合、大事なことだったんです。

 

【 BUH 】:でも1回目のインタビューの時にうえさんが「本って扉だ」って言っていましたよね。

 

【植 原】:本って必ず何かしら影響されますからね。一冊一冊に思い出があります。でも今回の展示のために選んだ50冊の好きな本、ぜんぶ喋ると大変なことになっちゃうから。ほんとに僕のこと好きな人だったら聞いてくれるだろうけど。

 

【一 同】:笑

 

【植 原】:そうでもない人は興味ないと思うから、あんまり言わないですけどね。

 

 

うえさん安定の巨人好き

 

【 BUH 】:選書リストの1冊目、「たかが江川されど江川」だったんで。これ触れちゃだめかなって思いましたが。

 

 

【良 重】:これは江川さんの自伝?

 

 

【植 原】:かの有名な「空白の1日」の話を書いているの。

 

【良 重】:その話だけ書いているのね。

 

【植 原】:実は中学生のときによんだから、あんまり覚えてないんですよね。小学校から中学校2年生まで野球をやっていたのですが、巨人大好き、江川も大好きで。今の時代でいうともちろん、イチローとか松井の方がすごいんだけど。当時のプロ野球への社会全体の熱がすごかった。だからもう巨人のエースっていうだけでほんとうにすごい。

 

【 BUH 】:1回目のインタビューでも「悪たれ巨人」の話がでましたが…、

 

【良 重】:家族揃って巨人ファン?

 

【植 原】:巨人が負けると、喧嘩が起きるんです。まずね、巨人が負けます、そうなると、母親が「もうっ!」っていってプチって消す。そうすると消した事実にたいして父親が怒ると。

 

【一 同】:あぁ(笑)

 

【植 原】:「今見てるだろう!」と。

 

【 BUH 】:北海道にも巨人ファンがいるんですね。

 

【植 原】:チームがなかったからね。

 

【良 重】:あと、巨人が出る試合しか放送されてないんでしょ。すごいよね。戦略っていうか。

 

【植 原】:洗脳だよね。

 

【植 原】:あと巨人じゃないけど、僕が好きなのはキン肉マン。

 

【 BUH 】:うえさん以外にこの場で世代の人がいないですね(笑)

 

【植 原】:すんごい面白かったのよ!

 

【良 重】:わたしは全くもって興味なし。

 

【植 原】:なにがいいかってね。最初超ギャグ漫画だったんですよ。おならで空飛んだり。それが突然勇敢な戦士になって、戦っていくという話なんです。

 

【良 重】:男の人ってこういうの好きだよね。

 

【植 原】:だから俺もね、ポーの一族とか全然見る気にならない。あの絵に馴染みがなさすぎて。

 

ポー

 

【良 重】:でもすごい綺麗な絵だよね。

 

【植 原】:いや~もちろん絵は綺麗にしたって、ねえ

 

【 BUH 】:少女漫画はあんまり背景がないんです。顔の描写の方が多いですよね。逆に、少年漫画って、その状況がどうなっているのかって作者がすごく考えるから、背景と位置関係が細かいと思うんですよね。

 

【良 重】:男の人と女の人の考え方の違いかも。

 

【植 原】:たしかに。

 

【 BUH 】:女の人は顔とか表情が大事なのかも

 

【植 原】:なるほど。逆に僕は、少女漫画って情報量が多すぎて、つらくなる(笑)顔ひとつとっても、パーツの描写が多いから、理解に悩むというか。

 

【良 重】:私は、もう1回ベルサイユのバラとか読みたいかも。

 

【 BUH 】:コマ割りが本当に美しいんです。「ポーの一族」や「トーマの心臓」を読んで、こんな美しい漫画があったのかと思いました。きっかけみたいな感じか。

 

 

「向き合う」ことの意義とデザイナーとしての成長

 

【 BUH 】:話は変わりますが、うえさん。仕事をする上で葛藤ってありますか。広告の仕事をしていると、この商品のこと本当に好きなのか、どういう仕事が、デザイナーにとって健康的なのか、考えたり悩む人も多いと思いますが。特に若いデザイナーですね。

 

【植 原】:もちろん、「ものづくり」という視点で考えると、仕事ってそういう悩みが生まれるよね。もうちょっと違う視点で考えてみるといいかもしれない。意外と人と関われることが多い、とか。そういう視点を持った方がいい。面白いことってたくさんあるんです。例えばクライアントとの会話とか。たとえば美大生って、自分の成果物ばっかりに意識がいきがちだけど、外の世界を「知る」ことや「話をする」をそういうことが意外ととてもおもしろい。おもしろいポイントがいっぱいだと仕事って楽しいんです。
一方で、デザインデザインってそこに固執する時期も重要。僕にもありました。3〜4年目まではそういう時期で、4年目以降は、人と関わることにおもしろさを見出していきましたね。

 

【 BUH 】:その3〜4年間で自分のスタイルはみつかった?

 

【植 原】:3年目くらいでわかった気がします。でも言えるのは、デザイン力を早くつけることが大事なのではなくて、誰よりも頑張るってことだと思う。誰よりも多く時間を費やしている事実って、実はとても大切。多く時間を費やしているって、圧倒的な事実で、言い訳もできない。これだけやったから、こういう結果になるというまぎれもない事実が生まれるんです。でもちゃんとやってないと、自分を責めることになる。もっとできたんじゃないか、自分、と。ちゃんとやっていれば、どんな結果でも「これがベストだ」と認識できるようになる。これが自分で、これができた、と。

 

【 BUH 】:時間の量だけでなく、向き合い方もありますか?

 

【植 原】:もちろんそれもある。けれどいろんなことに「向き合う」って最初は実はむずかしい。若い頃って、自覚的に向き合えるのは「デザイン」だけだと思うんだよね。「人と向き合う」というのは、デザインをかなりがんばって集中した先の話だ。デザイン力がついてこそ、人と向き合うことができるっていう考え方があってもいいのかもと僕は思いますね。

 

 

都会と田舎、デザイナーの育ちかたにも影響?

P6130356

【植 原】:あとここは金沢ですが、色々地方を回っておもったのは、東京の若いデザイナーって、目の前に仕事が与えられることが多いから、それに対してどうするか考えれば仕事ができてしまう。ある程度優秀な人はそれでデザイン力はつくんだけれど、クライアントの社長を口説くことはできないんです。でも地方を見ると、デザイナーが社長とかと直接仕事をやりあっているケースをよくみかけるんだよね。
東京だと20代後半でもアートディレクターの下についてなんぼだったりして。アートディレクターに評価をもらうのに必死。そこらへん地方でがんばっている人と「大人度」が全然ちがう。どっちがいいとか決めきれないけど、でも地方のデザイナーがどんどん優秀になってきていると感じます。

 

【良 重】:東京の美大とかにいるとまわりに優秀な人がたくさんいるから、気持ちがそわそわしちゃう部分もあるよね。あの人がんばってるなって焦ったり。

 

【植 原】:僕もありましたそういうの。でも、僕は自分の伸び率で考えてた、成長の伸び率。あの人たちはこういう角度で成長してるけど、俺はもっとすごい角度で成長するぞ、とか。

 

【良 重】:結構思い込み、すごいよね。

 

【一 同】:笑

 

【 BUH 】:その思い込みというか、どこで身につけたんですか(笑)

 

【植 原】:「やらなきゃいけない気持ち」しかないよね。俺がやらないと誰がやるんだって思わないと!

 

【良 重】:それがまさしく思い込み。

 

 

田舎(笑)が生んだよしえさんの思考

 

【 BUH 】:よしえさんはそういうのありますか?なにかと戦っているとか。

 

【植 原】:いつも空腹と戦っているよね(笑)

 

【一 同】:(笑)

 

【良 重】:やれる時間があったのにやらなくて、あーこれよくなかったなって後悔するのは私もとてもいやなんです。だから、時間があるだけ精一杯やって、時間がきたら、はいおしまい!って。それでやればやるほど、ちょっとずつ変わっていきます。いろんな仕事があるから、時間は有限なんだけれど、それがいい意味で「諦め」になる。ただその制限の中でやりきるしかない。後悔がいちばん嫌ですね。プレッシャーと後悔が一番きらいな感覚かも。
あとはひたすら一歩一歩着実に、派ですね。私は美大出身じゃないので、地元の大学をでて東京に来た時一切知り合いがいなかった。そういう意味では意識するひとがいなかったので、逆に楽だったかも。

 

【植 原】:人にはいろいろいいますよね。都会に住んでいる人は目の前に友人だったり先輩だったり、「理想の人」が現れたりするわけで。そこに到達したいっていう欲望がすごくでてきちゃうんです。それは逆にいうと、理想に近づけない自分を責めたりするわけ。それが都会の人の成長の仕方だと思います。
よしえさんはど田舎(笑)で育って、誰も敵がいない状態だった。とにかく一歩一歩目の前の面白いことに対して食いついていく、そしてそこをクリアして自分の器をひろげていく。そういうやり方なんです。なんというか今の器をフルに満たすことによって、次の器をつくれるというか。
でも都会にいるひとたちは、理想によって最初の器が大きくしちゃう。
で、満たされない水に対して、不満を感じるんですよ。

 

【良 重】:そのたとえめっちゃうまい。

 

【 BUH 】:わかりやすい。

 

【植 原】:じゃあ、俺たちはどうする。都会に生まれている俺たちは?

 

【良 重】:都会…?札幌、、?(笑)

 

【植 原】:都会の人間は、階段方式なんですよ。まず一個の階段を登ったら、次の階段がある。階段って長くはないんだけれども、登りきらないと次の階段があることがわからない。
よしえさんみたいにすごいなだらかな坂を着実に登っていくということは、都会の人にはなかなかできないのです。

 

【良 重】:うさぎと亀ですね。

 

【植 原】:(笑)

 

【良 重】:わたしは亀なの。一歩一歩。
で、うえさんはうさぎ。ピョーンと越えていく(笑)

 

【植 原】:ピョーンと飛び道具使って先にいくと。

 

【良 重】:で、たまに寝てる。

 

【植 原】:それはまた別の話だから…

 

【一 同】:笑

 

【 BUH 】:でもそれって、目標が見えているということですよね。

 

【良 重】:見えているような見えてないような、ね。

 

【植 原】:そこが大事なの。「見えてるようで見えていない」。

 

【 BUH 】:ではそのあたりよしえさんのお話を次回詰めて行きましょう。
 
 
第4回へつづく
 
 
 
取材:Hotchkiss 水口克夫/金子杏菜/久松陽一
編集:Hotchkiss 鈴木麻友美

キギ

株式会社DRAFTを経て、2012年にキギを共同設立。企業やブランド、ショップなどのアートディレクション、D-BROS等の商品デザイン、プロダクトブランドKIKOFや、洋服のブランドCACUMAの立ち上げなどあらゆるジャンルを横断しながら、グラフィックの新しいあり方を探し生み続けている。
http://www.ki-gi.com http://www.kikof.jp http://www.cacuma.com