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佐内正史×BUH 後編

佐内正史

佐内正史の世界の見え方

写真家・佐内正史さんが選んだ100冊のマンガは、ちょっとおどろおどろしいものから恋愛ものまで幅広いセレクト。

マンガが佐内さんの生活や価値観とどうつながっているのか、写真とはどうリンクしているのか、うかがいました。

前編と合わせてどうぞ。

 

 

 

【後編】:シャッターを押す瞬間はタイムマシンに乗っている


 

 

寝るのが怖い

 

【 BUH 】前編ではなぜ100冊マンガを選んだかのきっかけの話をうかがいました。そして佐内さんにとっての写真は「ヒント」であると。

 

【佐 内】:マンガの「見開き」を目で見るのはきっかけなんですよね。たいした写真やたいしたマンガじゃなくても、見ている人は勝手に脳内で色々再現する。それって自分にとっての写真にもつながっている。あ!だから僕は、マンガでしかも「見開き」を選んだのか。今わかりました。

 

【一 同】:爆笑

 

【佐 内】:今、わかった。

 

【 BUH 】:よかったです、我々も薄々感じていましたが、ちゃんとつながりましたね。ではマンガの話にうつりましょう。まずは『大日本天狗党絵詞』、これ初めて見ました。

 

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【佐 内】:なんというか、全体的に薄暗さがある。さらわれそうな感じ。読んでいると人さらいににあったような感覚に陥る。それがすごく金沢で撮った写真とリンクしたんですよね。金沢って、異空間に迷い込んでしまったような雰囲気があるから。

 

【 BUH 】:ふーん

 

【佐 内】:薄暗いマンガって、寝る前に読むのが好きなんです。自分はすごく「寝れない子」なのだけど、薄暗いマンガを読むとすとんと眠りに入る感じがある。寝付きがよくなるというか。この『わたしは真悟』とか、安眠ですよ。

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【 BUH 】:普通これは、怖いというか夢に出ちゃう系ですよ。

 

【佐 内】:う〜ん、確かに子どもの時はそうやって怖がっていた気がする…。いつからこうなったのだろう。(笑)なんというか、「そっち側」に行ってしまったのかも。薄暗いそっちの世界の方が、安心みたいな。ストーリーもそうだし、見た目の問題もあるかもしれない。夢の導入に近い感覚なのでしょう。

 

【 BUH 】:なるほど、その感覚は少しわかるかも。

 

【佐 内】:作品自体が夢の中みたいな感覚かな。『ドロヘドロ』もそう。

 

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【 BUH 】:この絵はすごいですね、そして薄暗さ。

 

【佐 内】:「太陽」みたいなものは自分とは違うのかもしれない。薄暗い方が自分にとって逆に「怖さ」がなくなるんです。なぜなら僕は、寝るのが怖い。

 

【 BUH 】:ずっと?

 

【佐 内】:そうですね、寝るのが怖いし、眠れない。そのまま死ぬような気がしちゃうんです。だから時間とか関係なく限界まで起きて、限界が来たら寝るという生活をしています。そうしないとやっていけない。

 

【 BUH 】:金沢での撮影の時もそうでしたね(笑)

 

【佐 内】:え、僕、寝てましたっけ?(笑)

 

【 BUH 】:撮影の合間に車の中で。

 

【佐 内】:あれがまさに僕の「睡眠」ですね。寝たい時、眠れる時に、という。この伊藤潤二さんの『死びとの恋わずらい』もそう、寝やすいんですよとても。

 

【 BUH 】:これはいい見開きですね。

 

【佐 内】:そうそう、薄暗さに加えて「恋愛」っていうのも大事な要素だな、と今気づきました。薄暗さの中に恋愛があると寝れる。あとは、『ドロヘドロ』でいうと、精肉機のシーンが好きなのですが。恋というか「これゲットしてあげなきゃな」という感覚。

 

【佐 内】:あと『HUNTER×HUNTER』はいいですよね、「ワダすもすぐいきます。ワダすもすぐいきます」って。

 

【一 同】:笑

 

【 BUH 】:これは一体どういう流れなのでしょうか。

 

【佐 内】:この子はいつも鼻をたらしていて、血も垂らしている。これは、「虫の王」が死ぬ直前のシーンで、やりとりが全部好き。寝るのが怖い自分にとって、「ずっと一緒にいる」というのがとても安心。

 

【 BUH 】:なるほど、寝るのが怖いのは、孤独が怖いということでしょうか?

 

【佐 内】:何かとずっと一緒にいたいって気持ちあるじゃないですか。だから恋愛って要素が必要なのかも。「薄暗さ」と「一緒にいたい」これが、『HUNTER×HUNTER』にも『ドロヘドロ』にも『天狗堂』にもある。それで言うと『わたしは真悟』もそう。小学生の恋愛マンガですが、これも「一緒にいたい」話。登場人物たちは、東京タワーから飛び降りれば一緒にいられると思っている。そして実際飛び降りて、思いが機械にやどって子どもができるんです。その機械が産業マシーンなわけです。
 
僕、「ブツ撮り」って結構好き。「ヒント」や「きっかけ」の話と近いんです。たとえば初めて使ったマグカップとかなんとなくいつまでも覚えていたりする。そういうマグカップと、マンガの見開き、そして僕の撮る写真は共通している。それが、なにか「ヒント」になるという点でね。だから陶器とかの渋かったり美しい器でなく、もっとあっけらかんと明るいものを選びますね、深みがないものというか。

   ※ブツ撮り=静物撮影

 

【 BUH 】:モノには薄暗さや奥深さを求めないということ?

 

【佐 内】:ブツ撮りは、そんなたいそうなものじゃなくて、きっかけになるような気軽なもののほうが撮りやすい。あと、これもマンガとつながるんだけど、マンガにでてくる産業機械とか工業用ロボットといったモノが意思を持ち始めるって設定ありますよね。モノっていうのは生み出したこちら側の一方的な感情が込められているから、意思を持って動き始めるのはワクワクする。
 
今回金沢で、金箔や塔や、獅子頭とかいろんなモノを撮りましたが、獅子頭が生き物みたいに撮れたんです。本当に生きているように。そういう感覚って、こちらの勝手な愛情なんですよ。別に何も獅子頭は言ってこないわけ。もしかしたら、ナノレベルで何か伝えてきているかもしれないですけどね。

 

【 BUH 】:笑

 

【佐 内】:この一方的な愛情と、きっかけでしかないもの。すごくだいじですね。

 

【 BUH 】:前編でうかがった、写真は一方的な愛情、映画は向こうから説明しにきてくれる、って話ですね。人がつくったモノでいうと、佐内さんの好きなパチンコ台もそういうこと?

 

【佐 内】:パチンコ台はちょっと違いますよ〜あれはギャンブルとして好きなんです。

 

 

ギリギリの場所で生きている

 

【佐 内】:あ、今第4コーナーっぽくないですか?第1章でグラビアの話、第2章で写真の話をして、第3章でマンガ、第4章ギャンブルっていう。ギャンブルの話をしましょうか。

 

【一 同】:笑

 

【佐 内】:ギャンブルで言うと、『カイジ』と『ボーダー』は好きですね。『ボーダー』の見開きは、あちら側とこちら側が勝負するシーン。

 

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【 BUH 】:あちら側とこちら側というのは、パラレルワールドみたいな?

 

【佐 内】:いや、個人と社会って感じかな。「社会性」があるのはあちら側、ないのがこちら側。

 

【 BUH 】:佐内さんの写真にはない柔らかさは「社会性」って話がえーっと、「第2章」ででてきましたね。

 

【佐 内】:そう僕の写真はこちら側。で、あちら側にもすごい奴らがいて、でもそのボーダーラインがあって主人公はギリギリのところにいる。ギリギリでいうと『新黒沢』も本当にギリギリ。主人公の黒沢はホームレスなんです。

 

【 BUH 】:私、最近読んでいます、モーニングの連載で。

 

 

『新黒沢』みたいなマンガはなかなか出合えない

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【佐 内】:黒沢読んでる女子って初めてみたな〜(笑)

 

【一 同】:笑

 

【佐 内】:黒沢は僕と同じところにいるんです。ボーダーライン上のギリギリ。たとえば『カイジ』は追いつめられたり勝負したりのスケールが大きけれど、黒沢の場合、登場人物はみんな川原に住んでいる(笑)ちなみに「新」になる前に『黒沢』ってマンガがあって、黒沢は最後に死ぬんですよ、しかも初めてつきあった女性ってのがおばあちゃん。とにかく設定が低いんですよね。

 

【 BUH 】:童貞でしたよね。

 

【佐 内】:童貞だけどおばあちゃんとつきあって、確かおばあちゃんの膝枕で死んでいく。それで黒沢終わっちゃったかって思って、って何年か経ったら急に『新黒沢』が始まった。で、死んだはずの黒沢が実は植物人間で生きていたってところから始まる。作者の福本さんってこれに賭けてるのかなって感じちゃうくらい。

 

【 BUH 】:設定がいろいろカオスですよね。

 

【佐 内】:この低い状況を必死にやっている感じがやばい。たとえば、『新黒沢』に出て来る「こじえもん」は水の確保役で、水汲みという役割でものすごく戦っている。ホームレスのなかにもちゃんと社会があるんですよ。みんなで壊れたビニール傘を集めて、割り箸とセロテープで補正してゲリラ豪雨を狙って駅で売って、そのお金で牛丼を食べたり。これが泣けた。今の時代に生きていてよかったなぁと思えるマンガです、こんなマンガはなかなか出合えないと思います。

 

【 BUH 】:黒沢が漏らしたくだらない言葉や感想とかで、なぜかまわりが悟りを開いたりするんですよね。

 

【佐 内】:あとは、あれがやばい、『中間管理録トネガワ』。カイジにでてくるトネガワが主人公のマンガです。部下がみんな黒服でサングラスをかけていて、トネガワはずっと「部下の名前が覚えられない」って言っている。

 

【一 同】:笑

 

【佐 内】:黒沢とはまた違う次元で、すぐにザワザワしちゃう主人公たちなんです。会議だけのシーンで1話終わったり、社員旅行だけで1話終わったり。とにかく些細なことでザワザワする。サラリーマンの人たち見たら泣くんじゃないかな(笑)

 

【 BUH 】:トネガワは100冊のリストになかったので、いれておきましょうか。

 

【佐 内】:そうしましょう。

 

【 BUH 】:ではいよいよ、『カイジ』ですが。

 

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【佐 内】:カイジはねえ、沼のシーンが好きで。断末魔の叫びで、沼、苦しんでるな〜ってキューンとしちゃいましたね。なんだろう、やっぱりギャンブルが基本なんですよね、ギャンブルは勝負。ギャンブルっていうのは向こう側のものへの愛情ですね。
 
僕ね、パチンコをやっている時に、台に話しかけるんです。「なんだよ〜もっと出してよ〜」「なになに?次かー」「じゃあ次、お願いします」って台と会話している。

 

【 BUH 】:笑

 

【佐 内】:その後「お前ばかかよ、なんで出ねえんだよ」って話したり、パチンコやってる人ならわかると思うけど、みんな会話するんです。お金かけて、台に会いに行くわけですよ。そして「向こう側」にいく感覚もたのしむ。けれどたとえば、全財産が10万で10万もってパチンコに行って徐々にお金が減ってくると俺何やってるんだ、ってなりますよね。なんの意義があるかわからなくなる。自問自答ゾーン突入ですね、きわどいラインです。

 

 

ギャンブルの一手は未来と過去をつなぐ

 

【佐 内】:『ヒカルの碁』ってマンガがあって、何のために生きているんだっていうのを主人公が考えた時に「過去と未来をつなぐ、点」みたいなことを言う。
 
ギャンブルもね、自分の中でまさにそれなんです。遠い未来と遠い過去が、打つ「一手」でつながるんですよ。いろんな過去を考え鑑みながら、でも過去にはとらわれずに、一手を打たないといけない。全く過去にとらわれないのは違うんです。とらわれながら、とらわれない、それが未来の一手です。写真でシャッターを押す時も同じ。過去とはちょっと違わないといけない。「この感じ前に撮った気もするなあ〜、いや無いか」みたいな。ちょっと違わないといけない。かといって全く新しいものっていうのもちょっと違うんです。

 

【 BUH 】:なるほど。

 

【佐 内】:ちなみに撮ったあと「選ぶ」って作業がありますよね。僕は、最初の1枚を決めたらその後はわりと考えずにセレクトしていく。なにかしっくりこない写真を選んだり、ザワザワするものを選んで行く。自分的に「しっくりくる」写真っていうのは甘いしチャラい。撮ってる時はカメラを通して対峙しているのでシビアですが、セレクトの時は多少自分に甘くなることもある。だから、一番いいのは撮りながら選ぶってことができたらいいんですが、それは出来ない(笑)その感覚とマンガ選びは共通しているかもしれない。選ぶのはきっかけなんです。

 

【 BUH 】:今回金沢で撮りセレクトしたのは12枚ですよね。

 

【佐 内】:今回はだいたいみつえ(A山本さん)に選んでもらいました。セレクトの段階でもういちど、偶発性をいれるっていうのも大切だから。たとえばパチンコをやってる時にも、本当はこのままずっとやりたいけど、友だちが「こうしたほうがいいよ」って言って方法変えるとすごく出ることがある。そういう偶然のきっかけもいい。
 
風景も、僕が決めることじゃない。車をちょっと後ろにして、ドーベルマン連れている人を歩かせて、って決めるとそれはセットでしょ。僕の写真は、現実に決めてもらう。偶然で決まるんですよね。だからマンガも、友だちに聞いたりして選んでいます。その友だちの声に説得力があったりすると読んでしまう。「聖闘士星矢のここがヤバいっす!」と言われるとつい、みたいな。

 

【 BUH 】:笑

 

【佐 内】:この作者はとにかく見開きが多い。

 

【 BUH 】:構成というより、とにかく見開きですね(笑)

 

 

撮りおろし「金石手帖」の構成の妙

 

【 A山本 】:最初ベタ焼き見た時にどう構成するのかな、って全然わからなくて。たぶん佐内さんも水口さんもあんなちゃん(金子)もみんなわからなかった。どうなんのかな?って感じでした。

 

【佐 内】:決まらないから、じゃあ全部焼いてみようってプリントした。なんだろう、選んで1冊にするのって「メッセージ」に近いのかも。最初の1枚を何にするかは、それが主軸になるから大切。それさえ選べたら、あとはつないでいくんです。そうやって構成というかメッセージが決まると、あとはみつえに任せちゃう。

 

【 BUH 】:すごい。

 

【 A山本 】:今回金石以外の金沢でも撮りましたが、さっきの話の「柔らかい写真」が入ってくるとみる人が安心しちゃうかな?とか。今回は安心させたいのか、突き放したほうがいいのか。それをひとつひとつ考えて解決していって、流れができる瞬間がいつも楽しいです。金石だけだとかたすぎるから、カニも入れてみようかな、とか(笑)

 

【 BUH 】:佐内さんが写真を撮っていて、「今入ってるな」って瞬間は自分でもわかりますか?

 

【佐 内】:まわりが何も気にならない時、そういう状態の瞬間が自覚的にクッキリわかる時があるんです。それが写真を撮っている時。映画を観ていて入り込んでいる時と似ているかもしれない。なんというか、タイムマシーンにすごい速さでのってすごい速さで戻って来る感じ?「あ、今ちょっと行ってきた」っていう。それが入り込んでいるときの写真を撮る行為。その繰り返しですね。

 

【 BUH 】:それをずっとやっていると。

 

【佐 内】:ずーっと。オファーを受けてやる仕事の時も、その中で「じゃあ(タイムマシーンで)いってきまーす!」って。瞬間タイムマシンというか、瞬間異次元空間扉ですね。125分の1秒の。ぱっと扉をあけてぱっと戻って来る。その行ったり来たりに慣れちゃってるから、何かあればすぐに行きます。行けない時はまったく行けないんですが。

 

【 BUH 】:ギャンブルも写真も未来と過去をつなぐもので、どちらにおいても佐内さんはヒントをつくれる存在であると。最後にお聞きしたいのですが、撮りにくいものってありますか?

 

【佐 内】:うーん、たとえば海は気持ちが入りこみにくいかもしれない。住宅街は撮れるけれど、海はむずかしい。「海がきれい」とかそういう風に元々思ったことがないですからね。空もそう。手前に電線とか屋根がはいってくると、「あぁこの屋根はいいな」って思うのですが。空だけたらーんって四角く切り取っても、自分にとってはグラフィカルで閉鎖的。だから自分が撮りたいものは感覚的に決まっているかもしれませんね。

 

【 BUH 】:なるほど。佐内さんにとっては誰かの思いがある「モノ」っていうのが、きっかけになるのかもしれませんね。マンガでも写真でも。
 
BUHの展示では、今回金沢、金石で撮りおろした12枚の作品を展示し、佐内さんが選んだ100冊のマンガの展示・販売をします。12枚の作品はプリントされた「金石手帖」として販売もします。それでは皆様、BUHでお待ちしております。
 
 
取材:Hotchkiss 水口克夫/金子杏菜/鈴木麻友美
編集:Hotchkiss 鈴木麻友美
 
金石手帖

佐内正史

写真家。常に写真の時代をリードし続け、出版した写真集は多数。2002年に写真集『MAP』で「第28回 木村伊兵衛写真賞」受賞。2008年には 写真集レーベル“対照”を立ち上げる。最新刊は『度九層』(どくそう)。
2015年には作家・舞城王太郎との共著「深夜百太郎 入口」「深夜百太郎 出口」(イマココ社)が連続刊行された。現在、アストルティア内を精力的に撮影中。
http://www.sanaimasafumi.jp/