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佐内正史×BUH 前編

佐内正史

佐内正史の世界の見え方

BUHの展示のvol.5は写真家、佐内正史さん。

佐内さんが選んだ100冊はなんとすべてマンガでした。さらにシーンの指定まで。
佐内正史の脳みそはどのようにできたのか、彼の目に世界はどう映り、写真で切り取っているのか−、

BUHメンバーで伺いました。

【佐 内 】:佐内正史さん
【 BUH  】:BUHの中の人3名(Hotchkiss 水口・金子・鈴木)
【 A山本 】:山本みつえさん(佐内氏のアシスタント)

 

 

 

【前編】:写真とは「ヒント」である


 

【 BUH 】:突然なんですが、BUHメンバーの鈴木は中学生の時人生で初めて買った写真集が佐内さんの『フレンズ』なんです。

 

【佐 内】:その歳で、あの写真集買ってくれるのってちょっと嬉しい。写真集をちゃんと買うってこと自体もね。でも、人生狂いませんでした?

 

【 BUH 】:そうかもしれませんね(笑)

 

【佐 内】:自分は雑誌も買わなかったからなぁ。『ボム』くらい?

 

【 BUH 】:ボムは買いましたね(笑)中2炸裂雑誌。今回の100冊には入ってないんですか?

 

【佐 内】:マンガじゃないし、『ボム』とか入れちゃうとキリが無い(笑)でも『ボム』大人になってから何回か仕事しましたけどね。

 

【 A山本 】:あれはエロかったですね。

 

【佐 内】:女子から見てもエロいぐらいの感じかな。

 

【 A山本 】:プライベート写真みたいな感じ。あるグラビアアイドルを佐内さんの車の中で35mmでフラッシュたいて撮ったものです。

 

【 BUH 】:それは見たい。

 

【佐 内】:夕暮れのコインパーキングで。

 

【 A山本 】:コットンぽい、ゴムで上下しまってる感じの水着ですね。下着っぽいやつ。

 

【 BUH 】:記憶力がすごい(笑)

 

【佐 内】:自分的には、あまりエロくなんなかったなと思った。ちょっとかっこいい感じになっちゃったというか。

 

【 A山本 】:「やらしい」ほうじゃない「エロい」ですね。

 

【佐 内】:あぁ、そういう意味だとその『ボム』の写真は、「エロ」すぎるって言われて。(グラビアでありがちな)「やらしい」写真に見慣れていると、僕の写真はちょっとビックリされたかもしれない。男子からするとですね、商業ベースにのっかってる青年マンガのグラビアのような商業写真がすごく興奮するんです。でも、エロくないでしょ女子からしたら。

 

【 BUH 】:キラキラしてる感じとか?

 

【佐 内】:キラキラしてるのに、こうなんか。キラキラしてればキラキラしてるほど、やらしいというか。自分はそういう写真は撮れなくて。もっと下世話なものを撮りたいんだけど。撮りたいなぁとは思ってたんだけど。あんまり撮れなくてね….。

 

 

 

 

100冊すべてのマンガのわけ

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【 BUH 】:ちなみに、もうインタビュー始まってるけどいいですか。

 

【佐 内】:いや….。

 

【 BUH 】:今の話載せていいですか?オフレコ?

 

【一 同】:笑

 

【佐 内】:マンガの話をしましょうか。

 

【 BUH 】:なぜ100冊すべてマンガなのでしょうか。

 

【佐 内】:せっかく100冊選ぶのであれば、単に100冊でなく、この本の「このページ」がいい!というのをやってみたいなと思い。好きな本をずらっと並べてというよりもうちょっとつっこみたかったんですよね。それで言うとマンガだと、見開きで「ここ!」とシーンを言える。ただね、なんというか、思ってたよりも見開きの印象が….違うんですよね。話が飛びますが、というかどんどん飛びますけど、そのまま書いてくださいね。

 

【一 同】:笑

 

 

なぜマンガ100冊 − 理由はない、そう決めたから。

 

【佐 内】:今回100冊選ぶ過程でマンガを読み返したら、自分の記憶というか想像と、今回久しぶりに見た「見開き」が違ったんですよ。

 

【 BUH 】:わかります、自分もちょっとびっくりしましたね、こんなんだっけ?と。

 

【佐 内】:頭の中ではもっと劇的で大きなイメージの絵だったものが…、実際見るとコマ割りが小さい。記憶や思いっていう頭の中のことと、実際のものが全然ちがう。そこがすごくおもしろかった。だから今回なんとなくマンガ100冊にしよう、っていう。こういうのもきっと運命的なことかもしれない。そう決めたら「選ぶ」という作業に進むだけ。
 
根本的には小説でもいいし、マンガも雑誌もなんでもありでいい。まず最初に「マンガ100冊にしよう」って決めた。そこからは、なぜ?って聞かれるかもしれないけれど、考える前にひたすら「選ぶ」ということをします。だから特に理由なんて全然ない。とにかく選ぶ、そして選んで終わり。意味はあまり考えないですね。

 

【 BUH 】:撮った写真のセレクトとかも近いのかもしれませんね。

 

【佐 内】:とにかく自分が思っていた見開きと印象が違うっていうのが衝撃でしたね。リアルタイムって、ストーリーを追って読んでるじゃないですか?前後のストーリーのイメージ含めた上で脳内で見開きができてくる。だから今回、選ぶ際に全部頭から読み返してみたんですよね。それで「そろそろあの見開きのシーンがくるな」と思ってぱっとみると、それでも全然違う。もうわけがわからないですよ(笑)

 

【 BUH 】:頭の中で再構成してるのでしょうか。

 

【佐 内】:再構成と言っても、マンガと同じ平面では無いですよねきっと。3Gじゃなくて。えーっと、2D?

 

【 BUH 】:3D(笑)

 

【佐 内】:3Dが今現実の世界ですよね、三次元。おそらく再構成はいったん脳内で三次元になってしまっているのかも。だから1枚の絵、マンガというかアニメに近いかもしれない。

 

【 BUH 】:なるほど。

 

【佐 内】:現実ともちょっと違うアニメを見てるような。最近よく見るのがね、僕ドラクエ好きなんですけど。こないだドラクエで釣りに行ったんですよ。

 

【一 同】:え!?(混乱)

 

【佐 内】:あ、夢の中でね。

 

【一 同】:笑

 

【佐 内】:246を渡っているときに大きな池があって。「鯨ヵ池」っていう池なんです。そこにフレ(※フレンドの意。ドラクエでは皆そう呼ぶ)と僕で釣りに行くわけです。こっち側はあんまつれないから、あっちに渡ろうよ、って。ドラクエの中だとドルボードに乗るんですけどその時は乗らなくて。なんか遠いなぁと思いつつ、たぶんその「鯨ヵ池」って自分が中学の時に近所にあった実在の池なわけです。
<※:佐内氏はオンラインゲーム「ドラゴンクエストX」絶賛ハードプレイ中。>

【 BUH 】:246のどのあたり?(笑)

 

【佐 内】:三茶と池尻の間です。そのなんというか、夢の中で見たイメージが、もやもやしてるようなくっきりしているような。具体性がないようなあるような、そんな感じに近いんですよ、このマンガの見開きという存在が。自分が思ってた見開きはもはや今や夢の世界なんだけど、実際に見ると全然違う。だからこの100冊をマンガで見開きで選ぼうって決めたことと、自分のやってる「写真」がちょっとつながってきていません?今。

 

【一 同】:えっ(困惑)

 

【佐 内】:つながってきているんですよ、自分の中で。「抽象のような具体のようなわからないもの」というところから。

 

【 BUH 】:そこを掘る前にいったんいいですか?佐内さんて興味を持ったものにすごく入り込んでいくイメージなんですが。マンガも相当読んでるし、ドラクエやあとパチンコも。

    <※佐内氏はパチンコが好きなあまりパチンコ台「CR エヴァンゲリオン」を被写体に自らがプレイしながら撮影した写真集「EVA NOS」を発表している>

 

【佐 内】:どうなんでしょうね。ちなみに今日はあの、レンダーヒルズっていう土地の発売日だったんですけどね。

 

【 BUH 】:土地…発売日…?

 

【佐 内】:その土地が今朝売りに出されたんですよ。ぼくけっこうドラクエやりこんできているので。

 

【 BUH 】:あ、ドラクエの話!(笑)

 

【一 同】:爆笑

 

【佐 内】:レンダーヒルズは1億ゴールドで販売されたのですが、これ相当なお金なんですよ。で、僕は今ある家を処分してお金もって準備万端だったけど買えなかった。

 

【 BUH 】:抽選漏れ?

 

【佐 内】:一番早くに手続きを済ませた人が買えるんです。目覚ましセットして4時に起きて、並んだんですがそれでも買えなくて。でもなぜそこまでするかって?なぜのめり込むかなんて、わからないです。ただ普通にそこに並んで「いた」んです。理由は無いです。

 

 

 

のめり込むのに理由はいらない

 

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【 BUH 】:理由よりさきに行動があると。ちなみにたとえば、現実とドラクエの世界とかって曖昧だったりしますか?

 

【佐 内】:まったく一緒ですね。ただ現実だと自分の「のめり込み」にブレーキがかけられる部分はある。自分の写真集であればブレーキはかけないけれど、依頼された仕事だと「そんなにやらないで」「のめり込まないで」ってまわりの思いを感じちゃうこともあるし。

 

【 BUH 】:まわりというと?

 

【佐 内】:みんな。「そこまでしなくても(いいですよ)…」って。本当はもっと突き詰めてやってもいいと思います。でも仕事なので、そこそこに。自分的にはがんばっているのですが、まわりが目指しているところと違うので、そこまでのめり込まないようにしてるんです。突き詰めちゃうとなんというか….、迷惑をかけてしまうので(笑)

 

【 BUH 】:ゲームの世界は誰も止めない?

 

【佐 内】:限界まで行ってますね(笑)限界ですけど、限界じゃない。もっと行けるとおもっています。その限界というのも睡眠とか肉体って問題があるので。

 

【 BUH 】:ドラクエってエンドレスにやろうと思えばいくらでもいけるんですか?

 

【佐 内】:僕は今のところエンドレスですね。自分で目的も決められますし、配信でストーリーもどんどん増えて行く。マンガも同じくエンドレスです。例えば『ハンター×ハンター』は何回でも同じ話を読めますよ。エンドレスに。自分ではのめり込んでるって自覚はないままに。

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【一 同】:笑

 

【 BUH 】:先日今回の展示のための撮りおろしの「金石手帖」のために、金沢で写真を撮ったときは、撮ろうと思えばいくらでも撮れたと思うのですが、ある時点でやめましたね。もうできた!っていうタイミングはどう来るのでしょう。

 

【佐 内】:1日の中で大量に撮ると、「工夫」になってきちゃうんです。

 

【 BUH 】:工夫?

 

【佐 内】:(ひとつの対象や絵に対して)これがこう撮れたから次はこう撮ろう、こうなったら今度はこう撮ってみよう、というプロセスを踏むと、なんというか透明感やピュアさがなくなってしまう。だからあの日は、ある時点で「やめ」を選んだ。最近はよくジェラート撮ってるんですけどね。

 

【 BUH 】:ジェラート?

 

 

自分の撮る写真は「ヒント」である

 

【佐 内】:好きなジェラート屋さんがあって、そこでよくジェラートを撮るんです。お店の人に銀のお盆にジェラートを盛ってもらう。そして撮る、ということを繰り返すと…、これは店の人も言ってたんですけど3つ目くらいで盛り方に作為がでちゃう。それと同じで、写真も繰り返してると「工夫」がでちゃうんです。一番最初の透明感がどんどんなくなってきてしまうんです。
 
たとえば映像みたいに、コンセプトを決めてたくさん撮ると決めているものとは、アプローチが違うんだと思います、自分が撮っているものは。撮ること自体が、きっかけというか「ヒント」。だから「ヒント」じゃない写真になってきちゃうと、撮るのをやめちゃう。金石もジェラートもそう。何枚か思うがままに撮るとそこには最初ヒントがある。けれど、そのあと「工夫」していってしまうと、なんというか…。

 

【 BUH 】:作為的になる?

 

【佐 内】:うーん、作為というか…「社会性」が出る感じ。言い換えると「協調性」とも言えるかも。一方で、社会性のある写真だって必要だと思うんです。そういうものを撮っていこうってもし決めたとしたならば、ヒントを撮ったあとに割り切ってかつ試行錯誤し「工夫」して撮っていくといいのかもしれない。もちろん、社会性があるもので、透明感もあるって両立も可能だとは思います。でも、ただ工夫を続けていってしまうと、さっきのヒントのようなぽーんって放り出された、きっかけみたいな写真ではなく、柔らかいもになっていってしまう。その柔らかさっていうのは僕の写真には基本的には必要ないんですよ。

 

【 BUH 】:柔らかさ…たとえば柔らかさの対義語はなに?

 

【佐 内】:それがヒントでしょうね。ぽーんって投げされた、ヒント。

 

【 BUH 】:ぽーんは乱暴なニュアンス?

 

【佐 内】:いや、もっと壊れやすいものですね。

 

【 BUH 】:柔らかいものは壊れにくいですもんね。

 

【佐 内】:柔らかいというのは優しさじゃない。人当たりがいいということ。一方、ヒントはとても繊細で壊れやすいものだと思う。写真というのはそっちがいいと思います。繊細で壊れやすいけど、絶対的に強くもある、それがヒントです。それで言うと、広告写真とか雑誌の写真には柔らかさも必要だと思います。

 

【 BUH 】:ヒントって衝動的なものだとすると、年齢を重ねていくとアンテナが弱くなったりしませんか?

 

【佐 内】:年齢は関係ないかな。

 

【 BUH 】:話を戻しましょう、さっきおっしゃった「マンガの見開き」と「写真」がつながるところも「ヒント」なのでしょうか。

 

【佐 内】:そうですね。自分が久しぶりに実際に見た見開きと頭の中は、やはり違う。246とドラクエもまざってしまっていて、抽象と具体が混在する。けどその見開きが自分にとってヒントになっているんです。撮った写真って自分でも理由がわからないんですよ。プリントされた写真自体を見ても「なんだっけこれ?なんでだっけ」って。その時は直感的に「これ」って思うんだけど、数日、数ヶ月経った時にもずっと「何これ」って気になっているっていう(笑)それ自体がヒントですね。
 
たとえば映画は向こうから説明してくれるんですが、写真やマンガは違う。見る側の一方的な愛情があって、たとえば印象的な見開きを見たときにその人にとっての「ヒント」となって、さらに愛情が増していく。もう1回見返してみると、やっぱり「なんだっけこれ?」って思う。その一連の行為こそ、写真やマンガ。それが自分が写真でやりたいことそのものですね。やっぱり自分の写真は「ヒント」であってそれより深くは関わらない。見た人のちょっとしたきっかけになればいいなと。

 

【 BUH 】:写真そのものやマンガそのものより脳で反応したことが残っていくんでしょうね。ちなみに、ヒントをもっとわかりやすく言うことってできますか?

 

【佐 内】:友だちをつくるっていうのと写真って近いと思っています。友だち作るっていうとなんかしょぼいけど(笑)たとえばクラスの友だちに会っても、それ自体そんなたいしたことはないんですが、きっかけにはなるじゃないですか。自分の写真もそういうもの。ただこのヒントって自覚的じゃないんですよ。自分でもわからない何かがヒントになって、それが誰かのヒントにもなっていく。撮っている時は「これがヒントだ」とは思わないですからね。ただ撮ってるだけ。それで「あーよくわかんないな」「でも、なんかいいな」って思ったりする。マンガも一緒。描いてる人が「これは自分や誰かのヒントだな」って考えていないでしょう。

 

【 BUH 】:例えば、マンガ家は描いてる時に入り込むと、キャラが勝手に動き出すって言いますよね?佐内さんもそういう感じですか?

 

【佐 内】:自分はちょっと違うかも。夢の中のような感じ。そこにスっと入っちゃうというか。理性的なところはほとんどなくなっていて、ちょっとギリギリの状態ですよね。

 

【 BUH 】:じゃあ金石手帖の写真を撮っているときもそういうゾーンだったんですね。

 

【佐 内】:もちろん入ってました。スってすぐに入れるんで(笑)でもそれって撮っている間じゅうずっとじゃないんですよ。一瞬入って、出て、一瞬入って、ってオンオフを繰り返しているんです。シャッター押す時だから、本当に125分の1秒とかだけスっと入っている。出たり入ったり、何これ?ってなったり。

 

【 BUH 】:笑

 

【佐 内】:金石でも何かとりつかれるような場所がありましたね。歩いているといろんなきっかけがあるんですよね。

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 <※金沢での撮影の様子>

 

 一緒に歩いていた水口さんだったり、みつえだったりする。「佐内さんあれもいいんじゃないですか?」って言われたことだったり。じゃあ、撮ってみようって125分の1秒スっと入り込んで、「はぁー」と戻ってくる感じ。これが「撮れてるなぁ」という感覚。でも「もうちょっとここで何か撮ってください」と言われると、柔らかくなっていってしまう。今回柔らかいものもあるんです。割れやすくて強いものではない、柔らかいもの、でも透明感もある。これはヒントというより、飾っておいたりできるものかも。
 

【 BUH 】:なるほど。どの写真かはぜひ金石手帖をご覧いただきたいですね。具体的なマンガの話をせずにここまで来てしまいましたが、後編は写真とマンガの深い関係と、佐内さんにとっての「撮る」という行為を深堀していきます。佐内さんのお好きなギャンブルの話も聞いちゃいます。

 

 取材:Hotchkiss 水口克夫/金子杏菜/鈴木麻友美

 編集:Hotchkiss 鈴木麻友美

 

 

佐内正史

写真家。常に写真の時代をリードし続け、出版した写真集は多数。2002年に写真集『MAP』で「第28回 木村伊兵衛写真賞」受賞。2008年には 写真集レーベル“対照”を立ち上げる。最新刊は『度九層』(どくそう)。
2015年には作家・舞城王太郎との共著「深夜百太郎 入口」「深夜百太郎 出口」(イマココ社)が連続刊行された。現在、アストルティア内を精力的に撮影中。
http://www.sanaimasafumi.jp/