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81×BUH Talk:01

永島健志

81というレストランのできかた

2012年東京要町に81というレストランができました。そして2015年レストランは西麻布に移転。壁も天井もテーブルもすべてまっくろ、漆黒の空間で繰り広げられるショーのようなディナー。季節ごとに変わるメニューたち。夢中になる人たちの間で予約は常にいっぱいです。本を軸に、81をつくったシェフ永島健志さんの脳内を探ってみましょう。

 
 

Talk:01 シェフ永島健志の頭の中


 

 

 

メニュー開発は絵を描くような作業

【 BUH 】:西麻布店がオープンしてから2回お邪魔したんです。あの空間は何度訪れてもワクワクドキドキしますね。ライブやオペラの幕があがる前のドキドキ感のようでした。そして、先日うかがった際のテーマが「秋の森」。前半で「落ち葉」を表現した前菜や「土」のニュアンスのスープがでてきたり、コースが進む中でどんどん森が深くなりだいぶ迷子になりましたが。レシピっていつ、どういう時に「開発」してるんですか?

 

【永 島】:キャンバスを持ち歩くことがあるんです。で、絵のスケッチのようにレシピをつくりあげていくというか。まず全体の絵のようなものが見えていて、それをつくるにはどんなラインが必要で、どんな色でどんな質感かというのをつみあげていく。目的地にいかに確実につくか考えるような作業ですね。 その過程において大事なものは何なのか、いらないものは何なのか、どんどんシンプルにしていく、と。

 

【 BUH 】:その全体の絵の着想のヒントになってるものってありますか。本?

 

【永 島】:料理本ではなく、時に小説、写真集であったり映画であったり、そういうものから着想を得ることのほうが多いかも。考えようとして机の前にすわっていてもなかなか浮ぶもんじゃないですよね。まぁたとえば、夜中に自分を追いつめて追いつめて、浮ぶってやり方もあるんですが(笑)

 

読書とは忘却と更新の繰り返しのダイナミズム

【 BUH 】:なるほど。では永島さんにとって「本」ってどういう存在ですか。

 

【永 島】:これ1冊でどうこうっていう感じではないかもしれない。ある本を読んで、自分の好きなエッセンスは覚えて他は抜け落ちて、そしてまた別の本を読んで抜け落ちて、そうして色んな本のハーモニーが自分の知識をつくりあげていく。忘却と更新の繰り返しなんですよ。つまり、本というより「どういう本棚」が自分のなかにできているか、それがその人を表すのかもしれない。
 
あと、雑誌とかまさにそうですが本って、興味がなかった知らない知識との出逢いが楽しい。新聞とかもそう。 今どきは、インターネットの記事で自分の興味があるものだけ読むことができるけれど、それって食事に例えると栄養が偏った状態。 たくさんの未知のことに触れて、消化して自分の血肉となる。読書の忘却と更新のダイナミズムはそこだと思います。 ちなみに忘却と更新の話で言うと、僕打ち合わせの時にメモをとらないんです。それよりはその場で話すこと聞くことに全力投球する。だいたいそういう時とったメモってあまり見返すこともないし、メモをとらないと忘れてしまうようなことは重要ではなかったということ。 そうやって大事なことは残り、そうでないものは削ぎ落していく、それが自分をつくりあげていくんだと思います。

 

【 BUH 】:深夜に仕事が終わり、そのあともメニューの開発をして。時に海外にも飛び、という生活をしているとゆっくり本を読む時間もなかなかなさそうですが。

 

【永 島】:(2015年9月に「81」は要町から西麻布に移転しましたが) 要町の81を「アトリエ」として使っています。店の営業が終わったあとに、店舗やそのアトリエにこもって朝まで悶々といろいろ考え事をすることもある。 そこで、本を読んだり、映画をみたり。友人やシェフ仲間とそこで会うことも。そうしてる時にレシピがひらめいたり。ついついそのまま外が明るくなってることもありますね。

 

【 BUH 】:81×Hotchkiss展の準備でも連続徹夜させてしまいましたが(笑)、よくよく聞いたらずっと作業をしていたわけでなく、とりかかるまでに映画を見ていたなんて噂も聞きましたが。

 

【永 島】:それも発想の種ですよ(笑)

 

宮本武蔵のシンプルな生き方に惹かれたバガボンド

【 BUH 】:今回、永島健志セレクトで100冊本を選んでいただきました。 お、バガボンド。

 

【永 島】:これ全巻そろって1冊カウントなんですよね(笑)

 

【 BUH 】:そうです、たとえ70巻でてる作品でも1冊カウント。

 

【永 島】:バガボンドはね、出合ったのは高校生か自衛隊に入った頃かな。時代劇とかそういうものに興味があったわけではなくて、やっぱりこの作品は宮本武蔵の普遍的な描かれ方がいい。バガボンドって「漂泊者」って意味なんですが、要はジプシーとかそういうニュアンスもある。 最近思うのは、宮本武蔵が目指した「天下無双」と、シェフとしていろいろ切り詰めてシンプルに上を目指す自分、何か投影している部分があるかもしれない。宮本武蔵ってすごいわがままな人なんですよね。一方で、時々自分が何をやりたいかわからなくなっちゃう人間くさいところもある。 でもつまるところ、強くありたい、上を目指したい、そのシンプルな生き方に惹かれますね。

 

【 BUH 】:今自衛隊の話がでましたが、永島さんが料理と出合ったのが、自衛隊の護衛艦で調理室に配属されたとき。船の上では「食」が数少ない娯楽であり、そして大海原で食糧が尽きたらそれはすなわち死を意味する、翻って食は生の象徴でもある。このあたりの話は81×Hotchkiss展のためにつくったZINEで詳細が書かれているわけですが、船を降りた、と。

 

【永 島】:そして片瀬江ノ島の東浜のスペイン料理店で働きました。当時は料理の鉄人とかそういう時代で、フリーターとかの先駆けの時代。朝はサーフィンをして、昼間はサッカーのコーチをやったりして。そういうライフスタイルを気に入っていましたね。そして夜はその店で働いてました。そこで衝撃の出合いが。

 

【 BUH 】:エル・ブリの写真集ですね。

 

【永 島】:こんな料理があるんだ!って驚きですよ。ただ、当時働いていたスペイン料理店のシェフに「これはなんなんだ」って聞いても、あまり興味はなかったようで、その時は掘り下げず、でもずっと頭の中にあったんでしょうね。

 

【 BUH 】:この写真集すごいですね。「モダニストキュイジーヌ」大きさといい、お値段といい(笑)ぜひ、BUHに実物をみにきてほしい。

 

【永 島】:これは買うのにも読むのにもいろんな覚悟がいる本ですよ。もうこの中に描かれていることって「変態」。一生かけても自分にはなれない、っていうそういう突き抜けた人、いわゆる変態ですね。そういう感性に触れる体験ってだいじだと思います。

 

 

食の価値観の根原、サヴァランの『美味礼賛』

【 BUH 】:本格的にシェフとして身をたてる中、これぞっていう本はありましたか。

 

【永 島】:やっぱり「美味礼賛」ですかね。食べるってことがいったい何なのか、考えて考えてこじらせるぐらい考えて。そういう時に対峙する本ですね。

 

 

 

【 BUH 】:サヴァランにはいろんな名言がありますよね。「新しい星を発見するよりも新しい料理を発見するほうが人間を幸せにするものだ」とか、「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人間であるかを言いあててみせよう」とか。

 

【永 島】:人にとって食べるということがどういう行為なのか、そこを掘りすぎてこじらせてしまってるシェフって信用できると思うんです(笑)えげつないくらいこじらせててもいいと思う。

 

レストランの基本は茶室である

【 BUH 】:美術、そして茶室の本が多いですね。それは81の世界観とどうつながっていますか。

 

 

【永 島】:僕が目指す81というレストラン、その世界観って茶室なんですよね。 というか茶室っていうのは、「もてなし」の基本。相手のことを考えて、思って、そしてもてなす。そういう思いと技術ってレストランに限らず、人を楽しませるすべてのものに通じると思うんです。 そして茶室は総合芸術。もちろん茶が中心ではあって、そのまわりには「技術」や「作法」といった要素が支えている。 茶室に一歩入ったら、席主が世界を握る。そしてお客さんはお茶の前にはすべて平等。そして、掛け軸なり花なり、器なりから「物語」を感じ取りますよね。 説明がましいこともかたくるしいこともなく、ただ心を空にして、吸収する。アートであったりショーでありながら、「食」に近い体験である。それが茶室の魅力であり、僕が茶室に惹かれる由縁でもあります。

 

【 BUH 】:茶室つながりで「禅」の本も。81×Hotchkiss展の開催地、金沢が生んだ鈴木大拙の本もありますね。金沢という土地に対しての感想は?

 

【永 島】:すべてのものに対してセンスがいい。それは伝統芸術や文化にふれて育ってきたひとが大切につくりあげた街だから。そこに新鮮な魚や食材、美しい自然もあって、重層的な食文化をつくりあげている。 金沢では鮨の「みつ川」に2度行きましたが、大好きな店になりましたね。

 

【 BUH 】:ちょっと話を変えましょう。DVDのセレクト。これはまさに同世代感とか音楽カルチャーからの匂いを感じます。私と永島さんはまぁざっくり同世代ですからね。いちばん好きな映画ってなんでしょう。

 

 

【永 島】:考え方やテンション、シチュエーションによって観たいものはころころ変わる。だから「これ」って1本は決められないですね。

 

【 BUH 】:読書の忘却と更新のダイナミズムの話とつながりますね。

 

【永 島】:もちろん、サーフィンであったりパンクであったり好きなカルチャーの映画はなんとなくずーっと流しっぱなしにして繰り返しみたりはします。 僕は10代の頃からサーフィンが好きだった。かつて住んでいた茅ヶ崎もまさに海が中心の町。海と向き合うことで生まれた自分のなかの価値観もたくさんあります。そして音楽。パンクも好きだし、スペイン時代に行ったイビサも好き。イビサは「宝島」なんですよね。いろんなすばらしい要素がそこらじゅうにある。
 
おしなべて、フィジカルなものが好きなのかもしれない。トレインスポッティングなんて、まさにフィジカルな映画ですもんね。

 

平凡な人生からの逸脱と冒険

【 BUH 】:トレインスポッティングはいろんな意味で衝撃でしたね。年齢的にもたぶんそういうハリウッド大作!みたいじゃないものを意識的にみはじめた頃の作品で。音楽もクールで、ドラッグの描写も衝撃的で、総合芸術の映画として思春期に衝撃を受けてしまった人も多いはず。

 

【永 島】:トイレに潜るシーンとかドラッグのシーンとかシンボリックな絵が多いからそこばっかり記憶に残ってる人が多いと思うんですが、「平凡な日常」とかレールで敷かれた人生から逃げたくて、逃げたけどまた戻ったり、そんな試行錯誤の映画なんですよね。

 

【 BUH 】:そして、「アルケミスト」いいですよねぇ。「スプーンと油」のくだりが私は大好きなんですが、作品のキーワード「予感」。予感って、決して神秘的なものではなく誰にでもあるものな気がします。

 

 

【永 島】:アルケミストは、好きでずっと電子書籍で持ち歩いています。アルケミストの少年も結局、安定した羊飼いという人生を捨てて冒険にでるわけです。 そのあたり、トレインスポッティングもアルケミストも同じモチベーションの「ロードムービー」ですよね。平凡な人生からの逸脱と冒険。そこらへんに共感しているのかもしれない。

 

「メメント・モリ」は、つまり生きること

【 BUH 】:81×Hotchkiss展のタイトルにもなっている「メメント・モリ」。 アラサー以上の世代では、藤原信也さんの著書「メメント・モリ」や、Mr.Childrenのヒット曲「花 -Memento -Mori- 」などでご存知の方も多いのではないでしょうか。ですよね、永島さん。

 

【永 島】:え、知らない。

 

【 BUH 】:(笑) じゃあそれはおいておいて。 メメント・モリ=「死を想え」というと非常に禁欲的なイメージを感じるかもしれませんが、「Memento Mori」には対になっている言葉があります。 「Carpe Diem」=今を摘む、という意です。 死を想うことで、今の「生」があざやかになる。

 

【永 島】:生の象徴である「食」の体験をあざやかにするために、ベース、根幹となる「死」の世界を表現しているのが81というレストラン。81の店舗は壁や天井、ドアまでもが真っ黒。そして真っ黒のテーブルは、よく墓石にも使われる御影石からできてるんです。レストランとしてはなかなかに珍しいデザイン。徹底的に死の世界をつくりこむことで、料理とお酒そしてショーのような華々しい時間が映えるのです。

 

【 BUH 】:なるほど。

 

【永 島】:人間だれだって100%死ぬ。そしてみんな死については一度は考えたことあるはず。ただ、その死って存在が近くないと、「生」の大きさってわかんないんですよ。

 

【 BUH 】:死をフィーチャーしたいのではなく、光と影みたいに、対比することで「生」をとにかく謳歌させるってことが大事なわけですね。

 

【永 島】:そう。死を想えっていうのは、死へのカウントダウンを意味するのではない。日々、その日、THE DAY、THE DAYそれをつみあげていく。毎日、布団に入った時に、「生きてて幸せだなぁ」って思いながら寝ること。 そういうことのベースになるのが、メメント・モリかなって思うんです。

 

【 BUH 】:今回「メメント・モリ」にまつわる本をセレクトしたのは、影響を受けたというよりも、81の世界観をひもとく道具として、そしてそれ以上に、レストラン、食という体験をいまいちど考えていただくために、みなさんに読んでもらえれば、という位置づけですよね。BUHにお越しいただいたら、ぜひいろんな角度からメメント・モリを感じていただきたいなぁと思います。

 

【永 島】:ちなみに生と死で言うと、僕人間ってそんな長く生きればいいってもんじゃないと思うんです。自分は太く短く生きたい。 でも例えば、愛する人は自分より長く生きてほしいし、「おばあちゃん長生きしてね」って思う。そこらへんは大いなる矛盾ですね(笑)

 

【 BUH 】:自分と他者との関係性の話にもなる。それは永遠に解決しない矛盾かも。そうそう、81は実験的にサウンドプロデューサーを迎えましたね。

 

【永 島】:料理とお酒をペアリングするように、そこに「音」もペアリングしたいって思ったんです。まだ実験的な試みの段階ですが、これはおもしろいことになりそう。

 

【 BUH 】:次の予約が楽しみです。今日はありがとうございました!

永島健志

1979年愛知県生まれ。自衛隊護衛艦の調理室に配属になったことをきっかけに料理人となる。国内外のレストランで経験を積み、スペインの「エル・ブリ」にて修業。2012年、81を東京要町にオープン。2015年9月からは拠点を西麻布(コートヤードHIROO)に移す。
http://cy-hiroo.jp/